第10回 株式会社の監査役が違法に支配人を兼任しても解任前の行為は有効

株式会社の監査役が違法に会社の支配人を兼任した場合における、監査役の行為の法的効力について、台湾の最高裁判所は2012年9月20日に2012年台上字第4853号刑事判決を下し、「監査役が違法に会社の支配人を兼任し、解任前に監査役の身分で行った行為はなお有効」という見解を示した。

本件の最高裁判所の判決に関する事実の概要は以下の通り。

被告・張氏はA株式会社の監査役で、同社の「副総経理(すなわち、会社法上の「支配人」)」を兼任していた。張氏はA社が銀行法に基づく設立登記を行った銀行業者ではない以上、信託ファンドの運用を受託する銀行業務を行うことができないと知りながら、05年5月から他の共犯と結託して、主管機関である行政院金融監督管理委員会(金管会)の承認を受けずに「米ドルヘッジファンド」等、米ドルを投資単位とする多数の信託ファンドを違法に外部に発行した。かつ出資者に対し「出資額の140〜300%の利益を1年間保証する」とうたい、この方法で100人以上の被害者から巨額の違法資金を募った。これにより、銀行法、会社法等の関連する法律違反で、高等裁判所より有期懲役6年の判決が言い渡された。

取引相手を保護

張氏は上訴の際、「会社法第222条には『監査役は会社の董事、支配人または他の職員を兼任してはならない』と規定されている。自分はA社の支配人を兼任し会社法に違反している以上、監査役の身分で行ったその取引行為は無効となるはずだ」と抗弁した。

これに対し、最高裁判所は判決理由で、「監査役が会社法の規定に違反して会社の支配人を兼任した場合の法的効果について、会社法に明文の規定はない。しかし、監査役が会社の支配人を兼任していることが違法であるか否かは会社内部の問題で、外部の者が容易に知ることはできないため、解釈上、『監査役が会社の支配人を兼任している場合、取引相手を保護するため、解任前に監査役の身分で行った行為はなお有効』と判断しなければならない」という見解を示した。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。