第19回 労働基準法第12条第1項 第2号における雇用主が労働契約を終了する事由について

台湾高雄地方裁判所は2013年2月7日の12年労訴字第43号判決において、「労働基準法第12条第1項第2号の『労働者が雇用主、雇用主の家族、雇用主の代理人またはその他共に働く労働者に対し、暴行または重大な侮辱行為を行った場合、雇用主は予告なしに契約を終了することができる』という規定は、情状が重大であることを必要としない」と指摘した。

本件の紛争事件の概要は以下の通りだ。
被告乙:交通部の某機関
原告甲:当該機関の職員

11年5月、甲は当直の問題で同機関の職員丙と争いになった際、丙を殴り、顔、首、手に擦り傷を負わせた。乙は労働基準法第12条第1項第2号を根拠として甲を解雇した。甲は「乙の解雇行為は違法かつ無効」と主張し、解雇期間の賃金、賞与などの支払いを求めて提訴した。

「情状が重大である必要なし」

裁判所は審理の上、以下の通りの判断を下した。

「労働基準法第12条第1項第2号の立法の趣旨は、労働者とその他共に働く労働者らは業務上、生活上、接触が密であり、もし労働者が同僚に対し暴力行為を振るうと、業務の志気や企業経営に悪影響を与える可能性がある。このため労働基準法では、雇用主が予告なしに労働契約を終了できることを認めている。また、最高裁判所の95年度台上字第946号判決においても、『労働基準法第12条第1項第2号の成立は情状が重大であることを必要としない』と指摘している。本件において甲には丙を殴ったという事実がある以上、当該条項における『その他共に働く労働者に対し暴力を振るう』という要件に該当しており、当然、乙は法に基づき甲との労働契約を終了することができるため、甲敗訴の判決を下す」。

台湾の司法の実務では労働者を保護する立場をとることが多く、たとえ労働者が不適任であっても、雇用主が労働者を解雇することは容易ではない。本件は裁判所が雇用主に有利な判断を下しているため、外国企業にとって参考に値する事例である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)