第21回 被用者の犯罪行為について、雇用者が責任を負う要否

台湾高等裁判所は2013年3月20日の12年重上字第395号判決において、民法第188条第1項の「被用者が職務執行により違法に他者の権利を侵害した場合、雇用主は行為者と連帯して損害賠償責任を負う」という規定について、「同条の適用は被用者の職務上の行為を前提としなければならず、もし被用者個人の犯罪行為である場合、雇用主が責任を負う必要はない」という判断を行った。

本件紛争事件の概要は以下のとおり。

A銀行:台湾の有名な商業銀行

B社:A銀行の当座預金口座の顧客

陳 :B社の会計担当者。B社の会社印および通帳の保管を担当

陳は06年と07年にB社の責任者印を無断で作成した後、会社印、責任者印および通帳を使用して、B社の預金計約2,000万台湾元を複数回にわたって横領した。

B社はこれを発見後、陳の法的責任を追及したほか、「陳の使用した責任者印の偽造をA銀行が見つけなかったことには過失がある」と考え、陳が横領した預金を賠償するようA銀行に請求する訴訟を提起し勝訴した。

B社の連帯責任を主張

その後、A銀行は別途訴訟を提起して、「陳の横領行為はA銀行にも損害を与えているが、当該横領行為は陳の会社会計担当者としての職務上の行為であるため、民法第188条第1項の規定に基づき、B社は陳の行為について陳と連帯してA銀行に対し賠償責任を負わなければならない。また、陳がB社の会社印および通帳を保管しているため、A銀行は陳がB社の代理人であると誤認したため、B社は授権者としての責任も負わなければならない」と主張した。

これに対し裁判所は審理の上、「陳はB社の会計担当者であり、普段B社の銀行での預け入れ、引き出しなどの業務を担当しているが、責任者印の無断作成および預金の横領の行為はその個人の犯罪行為に該当し、職務上の行為ではないため、民法第188条第1項を適用してB社に連帯賠償責任を負わせることはできない」と判断した。また、「犯罪行為に代理関係を成立させることはできないため、B社はいかなる授権者としての責任も負わない」と判断し、A銀行敗訴の判決を下した。

B社は勝訴したものの会社の帳簿管理がずさんであり、定期的に会社資金の出納状況を確認していなかったため、陳に2年の間、何度も会社の預金を横領させてしまった。本件において会社経営者は、こうした社員および帳簿の管理に注意を払うべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。