第28回 労働基準法第12条第1項第4号の「情状が重大」の要件について

台北地方裁判所は、2013年6月28日に13年度労訴字第71号民事判決を下し、労働基準法第12条第1項第4号に規定されている「労働契約または就業規則に違反し、その情状が重大な場合、雇用主は予告せずに契約を解除することができる」ということについて、いわゆる「情状が重大」とは、労働契約または雇用主が制定した就業規則に違反しているかどうかのみを基準とするのではなく、「最後の手段」の原則にも合致していなければならないと指摘した。

本件の概要は以下の通りである。

甲は07年から乙の診療所に勤務し、同年11月に患者に健診報告書を郵送した際に、他の診療所の問診時間や宣伝の資料を同封した。乙は、甲が患者に他の診療所を紹介した行為は双方が締結した労働契約に違反していると判断し、労働基準法第12条第1項第4号に基づき甲を解雇し、退職手当の支給も拒否したため、甲はこれを不服とし、本件訴訟を提起した。

解雇しか方法はないか?

裁判所は審理の上、以下の通り判断した。

雇用主が労働基準法第12条に基づき従業員を解雇する場合は、「最後の手段」の原則に合致しなければならず、解雇の手段をとるにあたり、労働基準法第12条第1項各号に列挙されている情状がなければならない。つまり労働関係が重大な妨害を受け継続することが困難であり、かつ、雇用主が過失の記録、減給、職場調整などの他の懲戒方法によっても自己の経営秩序を維持することができず、即時に労働関係を終了する必要があると認めるに足る場合に、初めて解雇することができる。

裁判官は、以下の通り判断した。

本件において、甲は他の診療所の問診時間表などの宣伝資料を乙の診療所の患者に郵送したことは、労働契約における秘密保持規定や雇用主に対する忠誠義務などの規定に違反しているものの、甲が郵送した患者数はわずか10人であり、乙の営業に対する影響も限定的である。その上、甲は今回の事件を除き、他に職務上の手落ちはないため、甲の本件行為は、初犯であると判断することができる。言い換えれば、甲が乙との労働契約に約定されている事項に違反したにもかかわらず、乙が自己の経営を維持するために解雇以外の他の手段をとることができないというレベルには達していないので、労働基準法第12条第1項第4号が定めるところの「情状が重大」の要件に合致しない。従って、乙の解雇行為は不当であり、当然に労働契約終了の効力は生じず、乙は別途法に基づき労働契約を終了させ、甲に解雇手当を支払うものとし、乙が敗訴との判決を下した。

本判決から分かる通り、裁判所は労働基準法第12条の雇用主が労働者を解雇する際の要件に対して非常に厳格な解釈をとっており、雇用主は特に注意が必要である。

記事番号:T00045384
15:23


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執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)