第31回 董事と株式会社間の法律関係

台湾高等裁判所高雄支所は2013年7月24日に13年度上字第38号民事判決書を作成し、「董事と所属先の株式会社間の関係は、委任の法律関係に該当するため、董事は法により当然に会社との間の委任関係を随時終了することができる」と指摘した。

本件の概要は以下の通りである。

甲はA株式会社(以下「A社」という)の董事であり、甲は09年9月7日にA社のその他の董事である乙、丙に内容証明郵便を発送し、董事の職務を辞する旨を表明した。しかし、A社は終始、主管機関である経済部に対して董事解任の変更登記を行わなかったため、会社の登記事項と実際の状況に不一致が生じた。よって甲は、A社を被告として提訴し、甲とA社との間に董事の委任関係が存在しないことの確認を求めた。A社は、甲にはA社の1,000万台湾元余りの公金横領の疑いがあり、甲の責任を追及するため甲の辞任要求を拒否したと主張し、甲とA社間の委任関係は依然として存在すると主張した。

裁判所は審理後、次のように判断した。

「会社法第192条第4項では『株式会社と董事間の関係は、本法に別段の定めがある場合を除き、民法の委任に関する規定による』と規定されており、民法第549条では『(第1項)いずれの当事者も、委任契約を随時終了することができる。(第2項)一方の当事者が、他方当事者にとって不利な時期に契約を終了する場合、損害賠償責任を負わなければならない。ただし、当該当事者の責に帰すべきでない事由により、契約を終了せざるを得なくなった場合は、この限りではない』と規定されている。

本件において、甲は09年9月7日に内容証明郵便にてA社のその他の董事である乙、丙に通知し、董事の職務を辞する旨を表明しており、また乙、丙は同日に当該書簡を受領しており、上記の会社法および民法の規定に基づき、甲とA社との間の董事の委任関係は09年9月7日をもって終了しているはずである。A社は、甲には公金横領などの不法な状況の疑いがあるため、甲は委任契約を終了して責任を逃れてはならない、と主張しているが、甲がA社にとって不利な時期に委任関係を終了したとしても、民法第549条第2項の規定によれば、甲がA社に対し損害賠償責任を負うか否かという問題のみに該当し、甲の終了行為の効力に影響を及ぼさない。よって甲の勝訴と判決する」。

会社法第195条第1項では「董事の任期は3年を超えることができない。ただし、再選される場合は再任することができる。」と規定されている。したがって、株式会社の董事については原則として任期制を採用している。また、本事例から、株式会社の董事は理由を添えずに随時辞職することができ、会社側は法律上、董事の辞任を阻止することができないことが分かるため、特にご注意いただきたい。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。


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執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。