第35回 食用油事件をめぐる法的問題

2013年10月、「大統長基食品廠」(以下「大統」)は、同社の生産する純度100%をうたう「特級初絞オリーブ油」について、オリーブオイルの含有量が50%に満たないだけでなく、人体に有害な着色剤の「銅クロロフィル」を添加していたとして摘発・指摘された。彰化地方法院検察署は同月16日、彰化県衛生局の職員と共に大統に対して捜索を行い、数千本の食用油を押収した。

大統製品の約9割が不当表示

衛生局の検査の結果によると、大統はオリーブ油だけでなく、純度100%をうたう苦茶油でも実際の成分が20%だけで、他の安価な油を混合していた他、ラー油やピーナッツ油は香料で風味付けをしただけで、成分が含まれていなかったことなどが判明し、およそ9割の食用油の成分表示に偽りがあったことが分かった。また、司法および衛生機関がさらにその他の食用油生産会社に対して調査を行ったところ、同年11月現在、「富味郷」、「味全」、「泰山」などの企業でも食用油の成分表示の偽りまたは「銅クロロフィル」など有害成分の添加という違法事実が相次いで発覚している。

今回の食用油事件が台湾社会の大きな関心を引き起こした主な原因は以下の通りである。

1)今回、事件に関与したメーカーは、ほとんどが製品販売量が多く、知名度の高い大企業であり、その中に長年にわたって台湾市民の信頼を受けている「味全」など上場会社が含まれていた。

2)食用油は生活必需品であるが、「銅クロロフィル」などの添加物は人体にとって肝硬変などを引き起こす可能性があり、市民のパニックを引き起こした。

3)事件に関与する多くのメーカーは、いずれも経済部の食の安全性を認証する「GMP」マークを取得する優良メーカーとして認証されているが、依然としてこのように深刻な問題が生じたことで、政府の検査システムに重大な問題が存在することを示した。

違反企業は登記廃止も

1.食品衛生管理法

本法第15条第1項によれば、食品または食品添加物に人体の健康に有害な物質が含まれ、偽物混入または偽装表示などの状況がある場合、製造、加工、調達、販売などの行為を行ってはならず、違反した場合、同法第44条の規定に基づき、6万台湾元以上1,500万元以下の罰金を科し、情状が重大な場合、休業や営業停止させることを命じ、その会社、商業、工場の全てまたは一部の登記事項を廃止することができる。また、同法第49条に基づき、行為者に対して3年以下の有期懲役、拘留に処すか、または800万元以下の罰金過料もしくは併科することができる。

2.刑法

本法第339条第1項の詐欺罪の規定によれば、自己または第三者の不法な所有とすることを意図して、詐術により人または第三者をして物を交付させた場合、行為者に対して5年以下の有期懲役、拘留に処し、1,000万元以下の罰金を科す、または併科することができる。

彰化地方法院検察署は10月下旬、まず、上述の条文に基づき「大統」、「富味郷」の董事長などに対し公訴を提起した。現在、司法機関はその他のメーカーの不法行為について調査を継続中である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。