第51回 労働者の「試用期間」について

いわゆる「試用期間」について、台湾では特定の法律上の定義が存在しない。一般的には、会社が新入従業員を雇用した後の一定期間において、当該新入従業員が適任であるか否かを観察することをもって、試用期間の満了後、当該従業員が適任であると会社が判断した場合は留任させ、反対に適任ではないと判断した場合は解雇することを指す。

台湾法においては、試用期間の設置を特別に禁止または制限する規定がないため、実務上、使用者と労働者との間で雇用契約において試用期間についての約定を追加するという状況が一般的である。試用期間の長さについては、労働基準法の施行細則第6条に「試用期間は40日間を超えてはならない」ともともと規定されていたが、当該規定は1997年6月12日に削除されたため、現在、試用期間の長さは使用者と労働者との間で自由に約定することができる。実務上、試用期間は、通常1カ月間から6カ月間の間であり、3カ月間がもっとも普及している。

解雇の負担を軽減

試用期間が満了し、使用者が新入従業員のパフォーマンスに満足できない場合は、無条件に雇用契約を終了させることはできるのか?

これについて、労働部97年9月3日(86)台労資二字第035588号通達には「労使双方は業務の特性に基づき、契約の信義誠実の原則に違反しないことを原則として、合理的な試用期間を自由に約定することは、法により容認されるものである。しかしながら当該試用期間中または期間満了時点において、使用者が労働契約を終了したい場合は、なお労働基準法第11条(予告解雇の条件)、第12条(無予告解雇の条件)、第16条(解雇の予告時期)および第17条(解雇手当)などの関連規定に基づいて手続きしなければならない」と規定されている。労働部の上述の解釈によれば、試用期間が満了したが期待していたパフォーマンスに及ばない場合の雇用者による労働者の解雇は、一般の労働者に対するものと同じようである。

これについて、台湾高等裁判所は14年4月29日付の13年度労上字第82号の民事判決において「試用期間の意図は、使用者による比較的大きな労働者解雇の権利を留保させ、かつ使用者による当該解雇事由の証明義務を軽減させることにある」とさらに指摘している。言い換えると、裁判所の見解によれば、使用者は試用期間が満了したがパフォーマンス上、不合格である労働者に対して、なお労働基準法の関連規定に基づかなければ労働者を解雇することができないが、解雇の事由(例えば、労働者が適任であるか否か、労働者が就業規則などに違反したか否かなど)についての立証責任は軽減されるということになり、裁判所も使用者の判断を尊重する傾向にある。

実務上、新入従業員の実際の業務能力がその学歴などの履歴書に記載される内容と合致しないという状況はよく生じる。外国企業が新入従業員を採用する際は、適任でない従業員を解雇させる時の難易度を下げるため、雇用契約において一定期間の試用期間を約定することをお勧めする。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。