第54回 株主総会の招集手続の違法について

会社法第189条には、「
株主総会の招集手続き又はその決議方法が法令又は定款に違反する場合、株主は決議の日から
三十日以内に裁判所に対しその決議の取消の訴えを提起することができる。」と規定されているが、台湾高等裁判所の2013年上字第855号判決は、会社が指定した株主総会の開催場所が不適切であるか、又は招集通知において株主総会の開催場所が明確に記載されていない場合、株主総会の招集手続に違法があるとして、当該総会の決議を取り消せる旨を判示した。

本件の概要は以下の通りである。

原告Xは被告Y社の株主であった。Yが長年にわたり株主総会を開催しないまま、董事及び監査役の任期は満了したが、Yは株主総会を招集して董事及び監査役を改選しなかった。主管機関はYに対して株主総会を招集することを命ずる通達を出したため、Yは株主に対して、株主総会(以下、「本総会」という)の招集通知を送付した。Xは、Yによる本総会の招集通知に記載された日時に、同通知に記載された場所に行ったが、誰もいなかった。

招集通知には、本総会の開催場所の住所が記載されていたが、ビル名は記載されていなかったところ、Xは「Aビル」で開催されると思っていた。しかし、本総会の開催日後に、Xは、Yが同所の「Bビル」にて本総会を開催したことを知ったため、Yに対して訴えを提起した。

Xの請求の趣旨は、以下の通りであった。
1.主位請求:本総会の不成立を確認する。
2.予備的請求:本総会は招集手続に違法があるため、本総会の決議の取消しを請求する。
Yは、本総会が実際に開催されたので、Xの請求には理由がないと主張した。

1.第一審の新北市地方裁判所の2012年訴字第2227号判決は、以下の通り判断して、Xの訴えを認め、本総会の決議は取り消された。

(1)Xは本総会の決議が成立しないと主張しているが、本総会は確かに招集通知に記載された開催場所に存在する「Bビル」にて開催されたことから、Xの主位請求である、本総会の不成立の確認請求には理由がない。

(2)次に、会社法には、株主総会の開催場所及び時間に関する規定はないことから、定款に特別な規定がない限り、会社は適切な場所及び適切な時間を自由に選択し、株主総会を開催することができる。但し、株主総会は会社の最高の意思決定機関であり、全ての株主に対し、審議に関与する機会を与えなければならない。従って、株主総会は、会社の所在地か、あるいは株主の出席に便利で株主総会の開催に適切な場所にて開催しなければならない。

また、招集通知には、株主全体の出席及び議決権の行使に資するよう、株主総会の時間及び場所をはっきり記載しなければならない。

従って、会社が指定した株主総会の開催場所が不適切であるか、又は招集通知において株主総会の開催場所を明確に記載しておらず、若しくは他の不当な方法により株主の株主総会の開催場所への到着又は入場を妨げる場合、株主総会の招集手続に違法があるとみなすべきである。

(3)本件では、本総会の招集通知における開催場所について、当該場所には、ビルが5、6軒あるにもかかわらず、住所しか記載されておらず、また具体的な会議室さえ記載されていなかったことから、招集通知の記載が明確ではないと考えられるため、招集手続に違法があり、よって、原告の予備的請求は理由がある。

2.被告は第一審の判決を不服として、控訴を提起したが、第二審の台湾高等裁判所の2013年上字第855号判決は、原判決と同じ理由により、原判決を維持し、控訴を棄却した。

株主総会の招集通知において、開催日時及び開催場所(住所、ビル名、階数、会議室名)を明確に記載しなければならず、記載が明確でない場合、株主総会の決議は会社法第189条により取消される可能性があることに注意する必要がある。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。