第67回 「LINE」による育児休暇申請の可否

台北高等行政裁判所が2014年9月1日に下した2014年度簡上字第104号判決によれば、無給の育児休職は期間が短くないため、従業員は申請に当たって正式な書面により無給の休職期間の開始・終了日などの事項を詳細に記載しなければならず、口頭または携帯電話の通信ソフトウエアでなされた場合、合法とは言えない。

本件の概要は以下の通りである。甲は12年から、乙の託児センターで保母の職を務めており、甲は13年4月に乙の園長に対して、新学期の開始時に、無給の育児休職を申請したい旨を伝え、同園長は、甲が無給の育児休職の開始・終了日を確定させ、新任の保母への引き継ぎを完了させ、かつ書面で申請を提出すればよいと回答した。その後、甲、乙間に紛争が発生し、甲は前後して携帯電話の通信ソフトウエア「LINE」および口頭で、同園長に対し無給の育児休職を申請したが、拒否されたため、甲は、乙が男女雇用平等法(中国語:性別工作平等法)第16条、第21条の規定に違反しているとして、新北市政府労工局に申し立てを行った。新北市政府は調査の上、申し立ては成立すると判断し、男女雇用平等法第38条に基づき乙を1万台湾元の罰金処分に処した。乙はこれを不服とし、本件行政訴訟を提起した。台北高等行政裁判所は審理の上、乙の勝訴との判決を下した。

「人材配置管理に深刻な影響」

主な理由は以下の通りである。男女雇用平等法第16条には、「被用者は、勤続一年が満了した後、3歳に満たない子女一人につき無給の育児休職を申請することができる」、同法21条には、「被用者が前7条の規定に基づき請求する場合、雇用主は拒否してはならない」と定められている。雇用主が違反した場合、同法第38条により罰金を科す。

無給の育児休職を申請する方法について、無給の育児休職実施規則第2条第1項の規定によれば、「被用者が無給の育児休職を申請する場合、事前に雇用主に書面で提出しなければならない」。本条が書面で申請しなければならないと定めている理由は、無給の育児休職は期間が長いためであり、正式な書面により無給の育児休職の開始・終了日、連絡方法などの事項を詳細に記載しない場合、雇用主の人材配置管理に深刻な影響を与えることになる。

本件において、甲は、口頭、「LINE」により申請しており、いずれも「書面」ではないことから、乙がこのような不適法な申請に対し拒否することは、違法とはならない。

本件の判決の結果は、雇用主にとって非常に有利で、注目に値する。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。