第71回 会社の支配人の選任について

台北地方裁判所により2014年8月18日に2013年訴字第561号刑事判決が下されたが、同判決の趣旨では、会社の支配人は、会社により、会社法第29条に定める手続きに従って選任されなければならず、当該手続きを経ていない場合、支配人の地位を有するとは認め難い、としている。

本件の概要は以下の通りである。

台北地方検察署の検察官は、甲、乙(指名手配中)には共同で会社法第9条などに違反した疑いがあると判断し、甲を起訴した。

同条文では、会社が受け取るべき出資金について、株主が実際には未払いであるが、申請書類をもって払い込み済みであることを表明、または株主が払い込んだが、登記後に出資金を株主に返還、もしくは株主による回収を放任した場合、会社責任者はそれぞれ5年以下の懲役、拘留もしくは50万台湾元以上、250万元以下の罰金に処し、またはこれを併科すると規定されている。

登記完了後に資金を全額移転

起訴状の概要は以下の通りである。

甲は、乙によるA株式会社の設立時にA社の株主が出資金を実際には払い込まないことを知りながら、乙と共同で犯罪を行う意思をもって、まず甲が金主の丙を乙に紹介した。次に丙が、短期借り入れによって、A社の資本金と同額の資金をA社の銀行口座に送金し、それから乙が、A社の通帳をもって会社の資本額の審査手続きを行いかつ会社の登記を完了した後で、直ちに会社の口座から資金を全額送金、または引き出した。

台北地方裁判所は審理後、甲を無罪とする判決を下したが、その主な理由は以下の通りである。

会社法第9条の処罰の対象は会社責任者に限られ、「責任者」とは、会社法第8条の規定によれば、株式会社の支配人、取締役などを指す。会社法第29条の規定によれば、株式会社の支配人は取締役会で取締役の過半数の出席、および出席取締役の過半数の同意による決議をもって選任されなければならない。

しかし、本件の関連資料には、乙がA社の取締役会で支配人に選任されたことを証明するに足りる証拠が一切なく、乙がA社の取締役などの地位を有することを証明する証拠もない。よって、乙がA社の責任者であることを証明できない以上、乙は会社法第9条の処罰の対象に該当せず、ゆえに、甲についても当然に、乙との共同正犯は成立し難い。

取締役会での選任が条件

会社法第31条第2項では「支配人は、会社定款または契約に定められている授権の範囲内において、会社のために事務管理および署名を行う権限を有する」と定められている。支配人という職務上の名称は実務においてしばしば用いられるが、本件の裁判所の判決で示されるように、取締役会で選任されていない場合、株式会社における適法な支配人となることはできないことに特にご注意いただきたい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。