第86回 外国判決の効力を台湾で承認するための送達要件について

台湾においては、他国における判決の承認の可否を決める要件の1つに、その判決を下した裁判所が訴訟の開始の呼出を適法に送達したか否かが挙げられる。しかし、適法な送達の判断基準が国毎に異なるため、送達の適法性が問題となった事件がある。

本件の概要は以下の通りである。

米国永住権を持つ台湾人夫Yは2004年に台湾の裁判所で、同じ米国永住権を持つ台湾人妻Xとの離婚を請求したが、06年に敗訴判決が確定した。07年にYはXに対して、米国ニューヨーク州裁判所において再び離婚訴訟を提起した。08年に同裁判所はX欠席のまま離婚を認める判決を下した。その後、Yはニューヨーク州裁判所の確定した離婚判決に基づく離婚届を台湾の戸籍機関に単独で提出し、台湾の戸籍において、Xと離婚した旨の記載を得た。これに対して、Xは本件米国ニューヨーク州裁判所の確定判決が民事訴訟法402条1項所定の承認要件(外国裁判所の裁判権、送達・応訴要件)を満たさないと主張し、台湾の裁判所でYと婚姻関係の存在の確認の訴えを提起した。

14年2月18日台湾高等裁判所102年度家上字第199号判決は、以下の通り判示し、婚姻関係の存在の確認請求を認めた一審判決を維持し、Yの控訴を棄却した。

民事訴訟法402条1項2号において、外国判決の承認の要件として、敗訴した被告が応訴したことあるいは訴訟の開始の呼出が、相当な時期に当該外国において適法に送達され、又は台湾との司法共助によって送達されたことを要するものとされている。この要件の趣旨は、被告が、外国における訴訟手続の開始当初の段階から、自己の利益を守るために訴訟手続に関与する機会を具体的に与えられたこと又は自ら進んで応訴したことを、外国判決承認の要件の1つとすることで、被告の実質的な手続保障を確保し、最低限の被告の利益を保護することにある。

判決国における国内送達の場合、当該判決国の裁判所がその国の法律に基づいて訴訟手続開始文書を適法に送達すれば足りるが、台湾に対する域外送達の場合、当該判決国の裁判所が、台湾の「外国裁判所の嘱託による共助法」や「司法共助のプロセス」といった司法共助に関する協定に従って、送達しなければならない。

本件米国ニューヨーク州裁判所の確定判決は、敗訴したXの欠席判決である。また、Xへの訴訟手続開始文書の域外送達について、台湾における出会送達やYの米国訴訟代理人による電子メール通知がなされると主張されたが、いずれも台湾の司法共助に関する協定に定められた方法によらない送達であり、たとえ判決国法上有効になされたとしても、この離婚判決は台湾民事訴訟法402条1項2号の送達要件を欠くため効力がなく、XとYの婚姻はいまだ終了していない。

Yは上記判決を不服として、最高裁に上告したが、決定により棄却された(14年5月22日最高裁判所103年度台上字第1013號号決定)。

本件判決は財産関係事件において、送達が問題となった事件のリーディングケースとされる最高裁判決(12年9月5日最高裁判所101年度台上字第1360号判決)を踏まえ、身分関係事件においても、送達の適法性を判断する基準は、すべて判決国法によるものではなく、国内送達と域外送達を区別して、それぞれ異なる基準を適用すべきと判示された点に留意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。