第91回 外国人による台湾の軍隊駐屯地での写真撮影の法的責任

最近台湾全土で注目を集めている「アパッチヘリコプター違法写真撮影事件」だが、検察官の調べにより、事件当日、6人の外国人が許可なく桃園市内の軍隊駐屯地に立ち入ったこと、そのうちの1人は日本人であることが判明した。

この事件の概要は次の通りである。今年(2015年)3月29日、台湾陸軍の労乃成中校(中佐)が、家族・親戚および友人約20人を労中校が勤務する陸軍第601旅団に招き入れて見学させた。そもそも、一般の人々が軍隊駐屯地に立ち入る場合は応接室などの公共区域に限られるが、労中校は家族・親戚や友人をアパッチヘリコプターが駐機されている機密管制区域に連れて行き、自由に写真撮影をさせ、さらには、アパッチヘリコプターのコックピットに入れて写真撮影させることまでした。その際、女性の友人が、自身がアパッチヘリコプターのコックピットに座った写真を撮影し、後にフェイスブックに載せた。この友人が有名な芸能人であったため、事件はあっという間に広まった。

フェイスブックで拡散

事件が非常に注目を集めた主な理由は以下の通りである。

1.米国製のアパッチヘリコプターは、世界でもっとも強力な攻撃ヘリコプターと評価されており、今回写真撮影された機種は最新のAH-64E型で、米国以外で同機種を保有しているのは台湾のみのため、軍事機密レベルは極めて高い。

2.労中校はアパッチヘリコプターのパイロットであり、台湾政府が養成に力を入れるエリートであるにもかかわらず、軍隊の秘密保持規定を無視し、ハイテク兵器を自由に写真撮影させた。

3.規定では、外国人は、台湾の軍隊駐屯地に立ち入る場合、30日前までに国防部に申請して許可を得なければならないが、今回6人の外国人は何の申請もせずに駐屯地に入り込んでおり、安全管理面において深刻な問題があったことは明らかである。報道によれば、そのうち1人は日本人であり、同じくアパッチヘリコプターを写真撮影している。

要塞堡塁地帯法第1条では、「国防上制御、確保しなければならない戦術上の重要拠点、軍港および軍用機の飛行場を要塞(ようさい)堡塁(ほうるい)という。要塞堡塁およびその周辺における必要な区域(水域を含む)を要塞堡塁地帯という」と規定されている。また、同法第4条第1号および第9条の規定によれば、国防部からの特別命令がない限り、要塞堡塁に対し測量、攝影、描写、記述および軍事上の偵察に関するそのほかの事項をなしてはならない。故意に違反した場合、1年以上、7年以下の懲役に処され、過失により違反した場合、1年以下の懲役、拘留に処されまたは500台湾元以下の罰金が科される。

アパッチヘリコプターは高い戦略性と機密性を有するため、この事件において、アパッチヘリコプターが駐機されている格納庫は法律上「要塞堡塁」に該当する可能性が高い。よって、この日本人は、機密性を知らずに写真撮影をしたとしても、過失犯と認定される可能性があり、裁判所によって1年以下の懲役、拘留または500元以下の罰金という処罰が下される可能性がある。

どの国でも、軍用機、軍用ヘリ、軍艦などの兵器は基本的にすべて高い機密性を有する設備であり、見学や写真撮影の前にはまず関連する制限規定、禁止規定を確認しなければならないことに、特にご注意いただきたい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。