第95回 「閉鎖会社」による「1株1議決権」制限の打破

新規創業を奨励するため、経済部は「閉鎖会社」の条項に関する会社法改正草案を4月下旬に公表した。その改正の趣旨は、中国の企業家、馬雲(ジャック・マー)氏が「アリババ」を創立した際、マーの持ち株比率は高くなかったにもかかわらず、会社の主導権を十分に握っていたケースを参考に、資本が不十分な創業者でも比較的強い主導権を握ることができるようにすることで、若者による起業を拡大させるインセンティブとする。

「閉鎖会社」とは、株主の人数が35人以下であり、かつ会社株式の譲渡が制限されている非公開株式発行会社(普通の株式会社は原則として会社株式の譲渡を制限してはならない)をいう。本草案によれば、閉鎖会社であれば、現行会社法上の株式会社に関する一般的な制限を受けなくてすむ。改正のポイントは次の通りである。

一.閉鎖会社の株主間で議決権の比率を自由に約定することができる。従って、資金、株式が不十分な創業者でも、事前の約定により、株式比率を超える議決権を有することができる(現行会社法の約定では、株式会社の議決権は基本的に1株につき1個の議決権に制限されており、柔軟性がない)。

二.無額面株式を発行することができる(現行会社法の規定では、株式会社の株券には一定の額面金額がなければならない)。

三.半期に1回、利益を配当することができる(現行会社法の規定では、株式会社の株主に対する会社利益の配当は年1回に制限されている)。

四.転換社債を発行することができる(現行会社法の規定では、上場・店頭登録会社などの株式公開発行会社のみ転換社債を発行することができ、非株式公開発行会社は転換社債を発行することができない)。

五.複数議決権特別株を発行することにより、当該特別株が普通株に優先する議決権、すなわち1株につき複数の議決権を有するようにすることができる。(現行会社法の規定では、株式会社がこのような特別株を発行することは認められていない)

今回の草案の内容は、将来の会社創業に対する影響が極めて大きく、各方面から注目されている。現在も日本人を含む多くの外国人が台湾で起業しているため、本改正草案は将来台湾で起業する可能性がある外国人にも留意されたい。現在、改正草案は行政院による審議中であり、可決後、立法院に再び提出されて審議が行われる。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。