第98回 営業秘密法違反に関する刑事事件

営業秘密法は2013年1月に改正され、刑事罰の厳罰化が図られている。

1.第13条の1によれば、台湾内において窃取、横領、無断複製等の不正な方法により営業秘密を侵害した者は、5年以下の有期懲役に処され、かつ100万台湾元以上1000万台湾元以下の罰金を併科され得る。なお、犯罪行為者の得た利益が罰金の最高額である1000万台湾元を超える場合、得た利益の金額を考慮の上、当該利益の3倍を上限として、併科する罰金は増額することができる。

2.第13条の2によれば、台湾外で営業秘密を使用することを企ててその営業秘密を侵害する、いわゆる「国際的商業スパイ行為」を行った場合、より重い処罰がなされる。法定刑は1年以上10年以下の有期懲役であり、300万台湾元以上5000万台湾元以下の罰金が併科され得る。なお、犯罪行為者の得た利益が罰金の最高額を超える場合、得た利益の金額を考慮の上、当該利益の2〜10倍を上限として、併科する罰金は増額することができる。

3.第13条の4によれば、法人の代表者、法人又は自然人の代理人、被雇用者又はその他の従業員が、業務の執行により、第13条の1、第13条の2の犯罪行為をなした場合、その行為者が処罰されるほか、行為者が処罰された場合には当該法人又は自然人に対しても同条の罰金が科される。但し、法人の代表者又は自然人が犯罪の発生を防ぐために尽力した場合はこの限りではないとされている。

改正後の営業秘密法が適用された事例として、13年12月、台湾の大手電子機器会社A社を舞台とした機密漏洩事件がある。この事件では、A社の高級幹部2名が新会社を設立し、新会社を通じてA社の業務上の機密を中国大陸に漏洩し、約3300万台湾元のリベートを受け取ったとして、営業秘密法違反で起訴された。なお、この事件の判決はまだ出されていない。

また、15年4月、台湾の大手電子機器会社B社の管理職2名が、中国大陸のライバル企業に転職するために、B社内の機密文書を電子メールでライバル企業に漏洩したとして、営業秘密法違反で起訴された。なお、この事件の判決はまだ出されていない。

上記のように、台湾では営業秘密の流出に対する対策が強化されており、営業秘密法違反について、刑事事件とされるケースが少なくないことに留意する必要がある。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。