第117回 労使間合意があっても義務が免除されない労働基準法上の強行規定

台北地方裁判所は2015年8月14日に15年度簡字第75号行政判決を下し、「労働基準法第30条第5項は法律の強行規定であり、いずれの使用者もこれを順守する義務があり、労使双方が協議の上で免除できるものではない」と指摘した。

タイムカード未設置で過料処分

本件の概要は以下の通りである。

甲は、自動車部品、用品の卸売業を経営する会社である。台北市政府労働検査処が14年5月に甲の会社で労働検査を実施したところ、従業員のタイムカードを設置していないことが発覚したため、労働基準法第30条第5項の規定に違反しているとして、労働基準法第79条第1項第1号に従い、甲に対し2万台湾元の過料を処すこととなった。甲は、当該処分を不服として、労働部に訴願した。ところが労働部に棄却されたため、その後、甲は台北市政府を被告として台北地方裁判所に対し本件について行政訴訟を提起し、「従業員のタイムカードを設置する必要がないことについては、甲と従業員間で既に合意していたので、法律に違反していない」ことを理由に、原処分を撤廃するよう主張した。

台北地方裁判所は、審理を行った後、甲の敗訴の判決を下した。主な理由は以下の通りである。

労働基準法第30条第5項では、「使用者は従業員の出勤簿または出勤カードを用意し、毎日従業員の出勤状況を記載しなければならない。本項における出勤簿または出勤カードは1年間保管しなければならない」と規定されており、また、同法第79条第1項第1号では、「下記いずれかの行為に該当する場合、2万元以上30万元以下の過料に処す。一、第30条の規定に違反した場合」と規定されている。

労働紛争解決に必要な義務

労働基準法第30条第5項の立法の目的は、従業員の正常な勤務時間および時間外労働時間を明確にし、労使双方間で勤務時間、時間外労働手当、休暇などの認定に紛争が生じた場合に、裏付け証拠がないことを避けるためにあり、使用者に対し従業員のタイムカードの記録、設置および保管の義務を課している。これは法律の強行規定であり、労働基準法が適用される全ての業種に該当する使用者はいずれも順守する義務を負っており、労使間の協議の上で免除できるものではない。従って、甲の抗弁には理由がない。

実務上、多くの会社では、従業員出勤簿または出勤カードが設置されておらず、または、たとえ設置されたとしても従業員の出勤状況が毎日記載されていない。しかしながら、主管機関に発見された場合は、使用者に2万元以上30万元以下の過料が処されるため、特にご注意いただきたい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)