第120回 競業制限期間の上限および補償金

ここ数年、企業による競業制限の乱用の事例が散見されるようになった。

2013年には、ある大手の科学技術会社が、同業他社に転職し副総裁に就任した同社の元マネジャーに対し、競業制限違反を理由に損害賠償を求めたが、裁判において、同社の競業制限条項は従業員の離職後1年以内に従事してはならないと規定した対象の営業項目が45項目に達していたことが明らかになり、同条項によれば当該マネジャーは離職後、ごみ収集車の運転手に就くことさえできないとされていたことから、裁判所は、同条項は労働権を制限するものであると判断し、科学技術会社の主張を退けた。

このような状況の中、労働者の労働権および職業の自由を保障するために、15年10月8日、労働部は、「労使双方による離職後の競業制限条項の締結についての参考原則」(以下「本原則」という)を制定・公布した。

営業秘密への接触が前提

本原則の第5点目には、使用者が労働者の離職後の競業制限条項を規定する場合、法律の保護を受けるべき営業秘密または知的財産権などの利益を使用者が有し、労働者がその担当する職務または職位において、使用者の営業秘密または保護したい優勢技術に接触または使用することができるという状況になければならないことが明記されている。なお、営業秘密と言えるためには(1)通常知られていない情報(2)秘密性により、実質的または潜在的な経済価値を持つ情報(3)所有者が合理的な秘密保持の措置を講じている情報──の3つの要件を満たす必要がある(営業秘密法第2条)。

最長2年・地域も制限

また、本原則の第6点目には、離職後の競業制限期間は、使用者が営業秘密または知的財産権などの利益を保護する必要性がある期間に制限され、かつ、最長で2年を超えてはならないと明記されている。

さらに、競業制限の対象となる地域は明確に限定されており、かつ使用者の営業範囲に制限されなければならならず、また競業制限の対象となる職務内容および就業対象は、具体的かつ明確にされ、かつ当該使用者の職務内容および就業対象と同一または類似し、競争関係のある場合に制限されなければならないとされている。

補償なければ無効

上記のほか、今回制定された本原則では、使用者は労働者に対し、競業制限に対する補償を行い、かつ毎月の最低補償額が労働者の離職時の平均月額賃金の半分を下回ってはならないとし、さらに、違反した場合には、競業制限条項は無効となるとした。

なお、台湾高等裁判所13年労上字第53号民事判決および労働部00年8月21日(89)台労資二字第0036255号解釈によれば、労使双方の合意による離職後の競業制限条項が民法第247条の1における「明らかに公平を失する」行為であると認めるに足る場合、当該条項は無効とするとされている。

上記の通り、競業制限を設ける際、本原則における種々の制限を受けることに、注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)