第134回 不動産仲介に関する行政罰

不動産の「仲介業者」とは、不動産仲介業管理条例(以下「本条例」という)の規定に基づき仲介または代理販売業務を経営する会社または商店を指すとされているが、仲介業者ではない者が仲介または代理販売業務を営んだ場合、本条例の第32条の規定に基づき処罰される可能性があり、また、実際に処罰された例もある(台北高等行政法院2013年度訴字第1373号判決)。

上記事件において、甲は、台北市内に複数の不動産賃貸広告を出して、賃貸物件の賃借人を募集する旨を記載し、さらに広告に甲の連絡先の携帯電話番号を記載したとして、新北市政府地政局に通報された。

新北市政府地政局は、甲が不動産仲介業の経営許可を取得せずに仲介業務を営んでおり、本条例第5条第1項および第7条第1項の規定に違反しているため、本条例第32条の規定(仲介業者ではないにもかかわらず仲介または代理販売業務を経営する場合、主管機関はその営業を禁止しなければならず、会社責任者、商店責任者または行為者に対し10万台湾元以上30万元以下の罰金を科す)に基づき、甲に対し10万元の罰金を科すとの決定を下した。

無償でも仲介業務に当たる?

甲はこれを不服とし、自身は居住区のコミュニティーの総幹事で、賃貸物件の広告を出したことは住民の委託を受けたことによるものであり、住民または賃借人から何らかの報酬を受け取ったわけではないため、本条例の「不動産仲介業務」に該当しないと主張し、新北市政府地政局を被告として不服申し立ておよび行政訴訟を提起した。

台北高等行政法院は、次のように判断して、甲の主張を退けた。

本条例第4条5号によれば、いわゆる「仲介業務」とは、不動産の売買、交換、賃貸の仲立または代理を行う業務を指す。また「仲立」とは、二者の当事者間に介在して、その二者のために契約の機会を報告または媒介する行為を指し、仲立行為が有償であるか否かについては、必ずしも仲立行為の本質に影響しない。従って仲立は、仲介業務の行為の一つに該当する以上、報酬を受け取るか否かを問わず、当然のことながら本条例に規制される。

無許可の仲立行為自体が処罰対象

本件において、甲は掲載した複数の広告において、いずれも甲の連絡先の携帯電話番号を記載していることから、それによって、物件の賃借を希望する不特定の人が、甲に連絡をとり、さらに甲を介して家主に伝達することが可能であるため、このような甲の行為は、明らかに家主と不特定の人の間で契約の機会を報告するという仲立行為に該当する。また、甲が掲載した広告は4件もあるため、同じ性質の事務を反復して行っていると言えることから、経営業務の性質を有していると考えられる。

よって、甲の行為は本条例の「仲介業務」に該当するにもかかわらず、甲は不動産仲介業の営業許可を取得していないため、本条例第32条に基づき処罰され得る。

このように、台湾では、不動産の仲介行為は厳格な規定に基づき運用されていると考えられるため、十分な注意が必要である。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

(本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに執筆した連載記事を転載しております。)