第142回 合弁契約作成時の注意すべきポイント

弊職は、日本企業から依頼を受け、顧客の利益とニーズを踏まえて台湾法に合致する合弁契約を作成したり、または、日本企業と台湾の合弁相手間との紛争を手掛けることがよくある。以下の紛争案件は日本企業の参考となるだろう。

日本企業A社は、台湾企業B社と共同で、台湾における合弁企業C社を設立し、かつC社の社名にA社の社名を使用した。なお、A社の出資はマイナー出資であった。その後、A社はB社との経営理念の違いから、C社からの全面撤退を決めたものの、「どのように投下資本を回収するか」、「どのようにC社に社名使用を停止させるか」で紛争となった。

本件の難点は、A社とB社の間で締結した合弁契約において、A社の撤退時にA社の投下資本、およびC社の社名をどのように処理するかについて規定しておらず、また台湾法にも関連規定がないことにあった。そのため、弊所は戦略上、まず仲裁提起の方法を通じて、A社が保有するC社の持ち分をB社が買い取ること、C社によるA社の社名の継続使用を禁止すること、この2点についてA社を代理してB社に要求した上で、再度相手方と交渉を行った。本件は最終的にC社の解散、清算という手段を取り、顧客の問題は解決された。

撤退条項を定めておく

以上の判例により、日本企業が台湾の合弁相手と合弁契約を作成する際は、以下の点について特に注意が必要である。

1.合弁事業が永遠に続く保証はなく、合弁企業において期待通りの利益が出なかったり、意見に食い違いが生じたりした場合に、一当事者のみが撤退を希望することがある。このような事態を想定して、合弁契約において撤退条項を定めておく必要がある。なお、契約書上、撤退できるケースとして盛り込まれる事由としては、次の4点が考えられる。

(1)合弁当事者間の意見の食い違いを解消できない場合(デッドロック)

(2)他方当事者が合弁契約に違反した場合

(3)一定期間および一定金額以上の累積損失が生じた場合

(4)合弁当事者において経営陣の変更などによって支配権の異動が生じた場合

なお、合弁関係解消後の投下資本の回収に備えるため、合弁契約または株主間合意書などを締結する際に、撤退する場合、合弁会社または台湾側の株主に一定価格で株式を売却できるような条項を入れることをおすすめする。

2.台湾法によれば、自己の会社名称または商標などについて、他人が会社名称として不正に使用している場合、被害者はその使用の停止を求めることができる可能性がある(台湾商標法第70条第2号、同法第69条第1項、台湾公正取引法第21条)。しかし、これらの条項によって停止を求めるためには、「著名な」という要件や、「一般に認識する」という要件を満たさなければならない。また台湾の裁判例上、これらの要件は、客観的な証拠によって認定される必要があり、かつ台湾の関連事業または消費者を基準とするとされているため、いずれも容易ではない。合弁関係終了後の社名使用についても、合弁契約または株主間合意書などに、事前に約定すべきであると考える。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。