第155回 残業代の計算について

残業代の計算については、一般に賃金計算の方法だけに目がいきがちであるが、賃金計算基準の対象が問題となるケースも多い。そこで今回は、残業代の賃金計算基準の対象が問題となった事案について説明する。

2014年5月、新北市労工局は、市内のあるガソリンスタンドに対して労働検査を行ったところ、同ガソリンスタンドを運営するA社は、ガソリンスタンドの従業員4人が夜間残業したにもかかわらず、夜食代、皆勤手当などの賃金に該当する項目を延長労働時間の賃金計算基準に入れず、延長労働時間の賃金を少なく支払っていたことが発覚した。このため、新北市労工局は労働基準法違反によりA社に2万台湾元の過料を科した。

A社は上記のような計算方法をA社の台湾全土のガソリンスタンドの夜間残業代の計算に適用しており、このような処分を科された影響は重大であった。このためA社は、まず不服申し立てを提起し、棄却された後は行政訴訟を提起した。しかし15年12月30日、台北高等行政裁判所2015年簡上字第125号判決においてA社の敗訴が確定した。

夜食代も賃金

上記訴訟におけるA社の主張は、次の通りであった。

「夜食代」は「勉励、恩恵性質の給付」であり、労務・業務による所得ではなく、賃金ではない。A社は以前、深夜勤務の従業員に対しパン、牛乳などの食事を支給していたが、その後、金銭の支給に変更した。報奨する物品は異なるが、性質は同じである。皆勤手当も従業員が全月出勤することを奨励するための賞与であるため、賃金総額には計上できない。

これに対し、裁判所は次のように指摘した。

労働基準法では、賃金について「賃金、給与、賞与、手当等の経常的給付はいずれも賃金に属する」と規定されている。そのため夜食代と皆勤手当も賃金の一部であり、A社は従業員の夜間残業部分について、労働時間に基づき計算した賃金に夜食代および皆勤手当を上乗せしなければならない。

以上の事例から、残業代の計算においては、計算の方法だけでなく、計算基準の対象についても慎重に判断しなければならないことが分かる。

なお、参考までに残業代の賃金計算の方法について簡単に説明する。

現在、労働基準法第30条の規定によれば、労働者の労働時間は1日8時間を超えてはならず、1週間当たりの総労働時間は40時間を超えてはならないため、労働時間が1日8時間以上、または1週間当たりの総労働時間が40時間以上である場合、雇用主は、以下の労働基準法第24条の規定に従って残業代を計算しなければならない。

  1. 延長労働時間が2時間以内である場合、1時間当たりの賃金の3分の1以上を加算する。
  2. 再延長労働時間が2時間以内である場合、1時間当たりの賃金の3分の2以上を加算する。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。