第167回 台湾の医療観光産業について

近年、韓国、シンガポール、タイなどのアジアの国々では、高度かつ低価格の医療サービスにより外国人観光客を呼び込むという医療観光産業の発展において高い成果を得ている。そのため、台湾政府は、台湾の医療もかなり高い水準を有していることから、医療観光の発展により外国資本を誘致し、経済発展を促進したいと考えている。

台湾の現行医療法第4条によれば、私立病院は医師が設立しなければならない。すなわち、医師の資格がない者は私立病院を設立することができない。また、現行医療法において、病院は営利事業組織ではなく、会社形態で病院を設立することもできない。当然のことながら、病院について株式を発行することもできない。

しかし、医療観光産業を発展させるという目的のため、台湾の行政院は2010年2月に医療法の改正案を作成した。行政院の改正案第4条によれば、台湾において私立病院は依然医師が設立しなければならないが、国際医療業務を専門に行う病院の場合、会社形態で設立することができるとされている。さらに、同改正案の第90条によれば、台湾の衛生福利部は、国際医療業務を専門に行う病院を設立するための特定の区域を指定することができるとされている。

上記改正案が立法院で可決されれば、台湾の衛生福利部が指定する特定の区域内において、国際医療を専門に行い、外国人の患者を対象とする病院を設立する場合、会社形態で設立することが可能になる。この場合、病院は株式を発行することができるほか、株主に対して配当を行うこともできると考えられる。

会社形態で設立される病院は外国人の患者を対象とするため、上記改正案では、会社形態で設立される病院は台湾の全民健康保険が適用される病院になることはできないと規定されている。そのため、外国人は自己費用のみをもって医療サービスを受けることができる。また、同案の規定によれば、外国人患者を対象として会社形態で設立される病院は、行政院衛生署が許可する範囲内で台湾人に対し医療サービスを提供することができるが、この場合、台湾人は自己費用で医療サービスを受けなければならず、全民健康保険を適用することはできないとされている。

また、現行の医療法において私立病院に対する行政処罰の対象者は、私立病院の責任者、すなわち医師とされているが、改正案では、会社形態で設立された病院の場合、会社が処罰の対象となっている。

しかし、上記の改正案に対し、医療は営利の行為であってはならず、医療の目的は人種や階級を問わず同じ治療を提供することにあるとの批判がある。また、病院を会社化し、かつ外国の富裕層を取り込むことを目的とすることは医療の本質に合致しないとの意見もある。さらに、特定の区域において外国人の誘致を目的として会社形態で病院を設立することは、能力の高い医師が当該病院に流れ、裕福な外国人のためにのみサービスを提供し、台湾人に対する医療サービス水準が低下する可能性があるとの批判もある。

このような批判があるため、医療法の上記改正案については、6年たった現在でも可決されていない。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。


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執筆者紹介

弁護士 尾上 由紀

早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。