第178回 従業員の行為に対する雇用主の連帯賠償責任について

2014年1月、大型トラックの運転手である張が司法の不公平に抗議してトラックを総統府にぶつけ、建物に損害を与えた。張の行為に対し裁判所での審理の結果、刑事責任については、15年に殺人未遂等の罪により懲役6年の刑が確定し、民事責任については今年(17年)1月12日、最高裁判所が「張はその雇用主と連帯して建物修理費233万台湾元を賠償しなければならない」旨の判決を下した。

民法第188条第1項には「被用者が職務の執行において不法に他人の権利を侵害した場合、使用者は行為者と連帯して損害賠償責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任およびその職務執行の監督において相当の注意を払っていた場合、または相当の注意を払っていても損害が発生していたであろう場合、使用者は賠償責任を負わない」と規定されている。張の事件において、裁判官は、張が総統府にトラックをぶつけた日は本来トラックで輸送予定の日であったため、当日の運転行為は「職務執行行為」に該当すると判断し、張の所属する運送会社は従業員に対する教育訓練が不足しており、従業員を監督する注意義務を果たしていなかったため、張の雇用主は総統府が受けた損害について連帯して賠償責任を負わなければならない旨の判断を行った。

雇用主にも責任

類似の事案には、コーヒーショップの女性店員である謝が金銭問題により13年に陳夫妻を殺害した重大な犯罪事件がある。この事件の民事部分について、裁判官は、民法第188条第1項に基づき、謝の雇用主(コーヒーショップの店主)が謝と連帯して被害者の家族に631万元を賠償しなければならない旨の判決を下した。

従業員の故意の犯罪行為について、雇用主が抑制または予防することは難しいため、理論上は、民法第188条第1項ただし書きが適用される余地があるはずである。しかしながら、上記の2つの事例の通り、実務においては、裁判官は通常、被害者が賠償を受けられるよう、雇用主が連帯責任を負わなければならない旨の判決を下している。

よって、多くの企業は現在、従業員の違法行為についてあらかじめ賠償責任保険に加入し、従業員の違法時における雇用主の賠償リスクを分散させている。外国企業はこの点を参考にすることができる。

*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。


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執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。