第196回 商品価格の誤表示の対応

報道によれば、2017年7月、苗栗県のあるベビー用品業者の従業員が販売価格1,000台湾元余りのベビーお風呂グッズセットを、当該業者のショッピングサイトにおいてうっかり50元と誤って表示したため、消費者の注文が数千セットに上る事態が発生し、当該業者に数百万台湾元の損失が生じた。当該業者の責任者は「50元で注文を受け付け、また従業員に責任を追及しない」と表明したため、社会から高く評価された。

本件において従業員が商品価格を誤表示した状況について、当該業者は必ず50元で注文を受け付けなければならないのか、法律上いくつかの解釈がある。

契約成立のタイミング

1.民法第154条において(第1項)契約締結の申込者は、その申し込みにより拘束される。ただし、申し込み当時に拘束を受けないことをあらかじめ表明した場合、または状況もしくは事案の性質から当事者が拘束されることを意図していなかったと推定できる場合は、この限りでない。(第2項)販売用の商品を販売価格を付して展示することは、申し込みを承諾すると見なす。ただし、価格表の送付は申し込みを承諾すると見なさない」と規定されている。

通常、本条第2項に基づき、売主が商品の価格を表示することは「申し込みを承諾する」と見なされ、消費者が購入する意思を有する「申し込み」を表明しさえすれば、双方間で売買契約が成立し、売主は約定された価格で出荷する義務を有する。

もっとも本件はウェブサイト上で不特定の者に対し商品の価格情報を提供するもので、法律上、本条第2項ただし書きの「価格表の送付」と解釈される可能性がある。すなわち、売買契約の成立可否は、売主に最終的な決定権があるので、本件の業者は50元で出荷する必要はないという見解を採用する裁判所判決もある。(苗栗地方裁判所民事法廷2012年簡上字第9号判決)

故意か過失か

2.民法第220条において「(第1項)債務者は、故意または過失を問わず、その行為に責任を負うものとする。(第2項)過失に対する責任の程度は、その事件の性質によるが、その事件が債務者の利益の確保を意図したものではない場合、責任は軽減する」と規定されている。

本件において、双方間で売買契約が成立したと判断されたとしても、売主の表示価格が合理的な価格をはるかに下回っており、かつ売主にいかなる悪意または重大な過失もないため、たとえ本件業者が50元で出荷することを拒絶したとしても、消費者に対する損害賠償責任も本条に基づき軽減して認定される可能性がある。

本件のように、企業が従業員のミスにより消費者に対し責任を負わなければならない状況は、日本でも台湾でも数多く存在する。類似の状況が発生した場合、できる限り早く法律専門家の意見を求め、もっとも適切な解決方法を採用すべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。