第200回 犯罪を疑われた場合

台湾で最近、不思議な窃盗事件が発生した。ある韓国人が台湾で約9万台湾元を盗んだが、驚いたことに400人の警察官に包囲されて捕まえられたのである。

本件の概要は次のとおりである。

8月1日午前に与党(民主進歩党)のオフィスに潜入して窃盗を行った疑いがある、趙という姓の韓国籍の男(以下「趙」という)は、9万元の現金などの財物を盗んだ後、当日の午後、桃園国際空港から飛行機に乗って日本に向かった。しかしながら、日本の税関は趙に犯罪の前科があることを発見したため、入国を拒否した。そのため、趙は台湾に送還された。

趙は台湾に入国した後、入国審査カウンターを飛び越えてタクシーで桃園空港から逃げた。台湾政府は400人強の警察官を派遣して追跡し、最終的に新北市の烏来山にて趙を逮捕した。その後、趙は裁判官により「逃亡の可能性がある」ことを理由に勾留された。

本件の特別なところは、台湾法上、窃盗罪は重大な犯罪ではなく、通常、このように大勢の警察官を派遣して容疑者を追跡することはなく、また、裁判所が窃盗罪を犯した者に対して勾留の裁定をすることもないことである。多くのメディアの報道によれば、趙の窃盗事件に対してこれほど多くの人力を投入させたのは、被害現場が与党のオフィスだからである。

趙が関係する本件窃盗事件は、経験を有する弁護士に依頼して弁護などの事項を処理させていれば、裁判所に勾留され、自由を喪失することにはならなかったはずである。従って、日本人は台湾で犯罪行為に関係すると疑われた場合、または何らかの犯罪事件に巻き込まれた場合、まず法律専門家に意見を問い合わせるべきである。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。