第203回 日本人配偶者が離婚せずに帰国し台湾に戻らない場合について

日本と台湾の友好関係の深まりに伴い、日本人と台湾人との国際結婚も増加している。しかし、双方の仲が悪くなり、台湾で台湾人配偶者と同居していた日本人が、離婚せずに日本に帰国してそのまま台湾に戻らなかった場合、どのような事態が発生するのだろうか。

同居義務違反を主張

台北地方裁判所の1990年婚字第182号民事判決を例に挙げる。台湾人の原告甲によると、甲と日本人配偶者である被告乙は98年12月17日、台北地方裁判所において結婚の公証を行った。双方の間には愛情があり、乙は結婚前から台湾での共同生活に同意していた。しかし、99年2月以降、両者は文化や意見の相違により争いが絶えなくなり、乙はビザ切れを理由に日本に帰国してしまった。これに対し甲は、乙は帰国して以降、再び甲と同居する意思を示しておらず、明らかに同居義務に反すると主張。甲と同居する旨の判断を乙に対して下すよう裁判所に請求した。

被告乙は口頭弁論の期日に出頭しなかった。このため裁判所は、原告甲の主張を認め、かつ「乙には同居義務の履行不能について正当な理由はない」と判断し、「甲が夫妻関係に基づき被告に同居義務の履行を求める訴えを提起すること」を認めた。

しかし、同居の訴えは勝訴の確定判決が出ても強制執行できないため、同判決の取得後、判決と台湾民法第1052条第1項第5号に基づき、相手方の悪意の遺棄を主張して、裁判所に離婚判決を下すよう請求することになる。

離婚判決の可能性

よって、台湾人と結婚して台湾に居住する日本人が離婚せずに日本に帰国してそのまま台湾に戻らなかった場合、上記のような事態が起き、相手方から離婚判決を下すよう請求される可能性がある。

国際結婚の維持は難しい面がある。99年以降、台湾各地の裁判所が扱った、日本人と台湾人の婚姻において、配偶者のどちらかが同居義務の履行または離婚を求めた事案の件数は約48件に上る。しかし、裁判所としては調停および離婚判決を下すことしかできないため、コミュニケーションを取ったり、相談などの協力を求めたりして、互いに良好な関係を築いて婚姻関係を維持することをお勧めする。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。