第235回 株式公開買い付け

「株券等の有価証券の公開買い付け(TOB)」とは、企業が買付対象会社の不特定の株主に対し、その株式を買い付ける申し込みを公開方式で行い、かつ「特定の価格で一定数の株式を購入すること」を承諾することをいう。TOBは台湾法上、公開発行会社有価証券公開買付管理規則第2条第1項に「有価証券集中取引市場または証券会社の営業場所を経由せずに、非特定の者に対し、公告、広告、放送、電送情報、書簡、電話、会見、説明会またはその他の方式で有価証券を公開で申し込み、それを購入する行為」と定義されている。

TOBの有名な事例としては、金融持ち株会社、中華開発金融控股(開発金)が2017年に生命保険会社、中国人寿保険の25.33%の株式を取得したことや、鴻海科技集団(フォックスコン)傘下会社が今年設備メーカーの帆宣系統科技(マーケテック・インターナショナル、MIC)の株式を取得することなどが挙げられる。

TOBのメリット

TOB方式で他社の株式を取得する場合、次のメリットがある。

1)短期間に多数の株主から、買付対象会社の株式を大量に取得できる

2)買付予定株式数の上限および下限、買付価格、買付期間など、事前に条件を設定することで、取引の期間および金銭コストをコントロールできる

3)応募株式数が買付予定数に達しない場合、買い受ける必要がない

実施の注意事項

日本企業がTOB方式で台湾の上場企業の株式を取得する際の注意点は次の通り。

1)買付対象会社の大株主がTOB方式でその株式売却に同意した場合、台湾法に即した株式取引契約書を作成、提出する

2)経済部投資審議委員会(投審会)から事前に許可を取得する

3)金融監督管理委員会(金管会)にTOB申請を行う

4)公平交易委員会(公平会、公正取引委員会に相当)に「企業結合の申請」を行う必要があるか確認するため、事前に買付者および買付対象会社の市場シェアを確認する

5)買付対象会社の株価に対する影響やインサイダー取引などの問題が生じないよう、TOB情報の公開前は秘密を厳守する

TOBは手続きが複雑で、準備が必要な文書も多いため、実施の際には経験豊富な弁護士に相談し、代理人として委任してもよい。なお、弊所は、日本企業の台湾での複数のTOB案件を担当した経験があるので、気軽にお問い合わせいただきたい。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。