第239回 ストーカー規制法、台湾でも立法化へ

2014年に起きた、台湾大学修士卒の男が以前交際していた女性を台北市の路上で刃物で惨殺した、いわゆる「台大宅王ストーカー殺人事件」を契機にストーカー規制法の立法化が検討され始め、今年4月、日本の関連法規を参考に「付きまとい行為防止規制法」草案(以下「本草案」)が閣議決定されました。

「付きまとい行為」については、行為者が特定の者に対する恋愛感情、好意または怨恨により、当該者、その親族、または生活において密接な関係を有する者に対し、▽繰り返しまたは継続的に追跡監視、尾行をすること▽無言電話をかけること▽会う約束を要求すること▽物品を送り付けること▽個人の名誉を害する情報を提示すること▽個人情報を乱用すること▽同意を得ずにこれらの者に代わって商品またはサービスを注文すること──など、大きく7つに分類した行為を定義しています。

個人情報乱用も対象

本草案の構成、および付きまとい行為の定義、処理方式は、全て日本のストーカー規制法とほぼ同様ですが、「他者の個人情報を乱用すること、同意を得ずにこれらの者に代わって商品またはサービスを注文すること」については、日本のストーカー規制法に明文で規定されている付きまとい行為の中には存在しないようであり、注目に値します。

本草案では付きまとい行為に対して、「警察機関は通報を受けた後、先に行政調査を行い、事実である場合には補導を行うとともに制止することができる。行為者が警察側の制止勧告に従わない場合には書面により警告するとともに1万〜10万台湾元(約3万7,000〜37万円)の罰金に処することができる。警察機関により警告されまたは罰金に処せられてから2年間において、再度付きまとい行為をした場合には、裁判所に対し防止規制令を申請することができる。防止規制令にも違反した場合には、3年以下の有期懲役および30万元以下の罰金に処することができる」という4つの段階の処罰を設けています。

本草案は現行の「家庭内暴力防止処理法」と異なり、被害者の迅速な救済を目的として、裁判所に行かずに直接警察に通報できることを定めています。現在、本草案は立法院において審議中であり、年内に可決、施行される見通しです。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 鄭惟駿

陽明大学生命科学学部卒業後、台湾企業で特許技術者として特許出願業務に従事した後、行政院原子能委員会核能研究所での勤務を経験。弁護士資格取得後、台湾の法律事務所で研修弁護士として知的財産訴訟業務に携わる。一橋大学国際企業戦略研究科を修了後、2017年より黒田法律事務所にて弁護士として活躍中。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。