第68回 不渡り小切手

皆さん、こんにちは。Poblacionです。フィリピンでは小切手が広く使われています。フィリピンで事業を経営していれば、仕入れ先への支払や、税金等政府への料金納付に、一度は小切手を利用する機会があるでしょう。また、小切手は、個人間の取引にも利用されます。たとえば、殆どの家主は賃借人に、小切手で賃貸料を支払うよう要求します。車や不動産を分割購入する場合も、分割払い分に相当する金額の先日付小切手を発行するよう、売主から買主に要求されることがあるでしょう。

残念なことに、小切手の利用が増えたことで無責任な者による資金不足、あるいは不渡りの小切手の発行や流通も行われるようになってきました。こうした悪質な行為が、フィリピンの金融システムに悪影響をもたらすおそれもあるため、政府は、不渡り小切手法(「BP22」)を制定し、これにより、十分な資金又は信用を伴わない小切手の作成、振出及び発行行為を、刑事罰の対象としています。

特にBP22は、小切手発行時に、支払に十分な資金が自分にないことを認識していながら、掛け勘定や代金支払の申込のために小切手を発行した者を罰則の対象とします。認識という頭の中の状態を証明するのは非常に難しいため、以下の場合に資金不足を認識していると推定されることが法律上規定されています。

(a) 小切手の日付から90日以内に、銀行に提示された小切手が不渡りとなり、かつ (b) 小切手の不渡り通知を受領してから5銀行営業日以内に、発行人が当該小切手の資金に充てるための支払又は手配をしない場合。

さらに、小切手発行時には十分な資金があっても、小切手の日付から90日間、当該小切手の支払に十分な資金を継続的に維持していない者も、BP22による処罰の対象となります。

BP22に違反すると、30日から1年の懲役及び/又は小切手の金額の倍額に相当する罰金(ただし、200,000ペソが上限)が科されます。小切手の振出人が会社である場合、その会社を代表して小切手に実際に署名した者が、罰則を受けることになります。これらの刑事罰は、被害者に対する民事上の補償(すなわち、不渡りになった小切手の金額)に年利12%の法定利子を上乗せした金額とは別に、科されるものです。また、BP22に基づく刑事訴追によって、他の刑法上の違反(詐欺等)について免責されることもありません。

BP22は、非常に厳格な法律で、価値のない小切手が発行され、その発行行為自体が罰則の対象となります。ある事件では、資金不足で小切手が現金に換えられないことを承知の上で、単に宿泊代を支払うために小切手を発行した人が、BP22違反の責任を問われました。このように、価値のない小切手を発行したという行為だけで、処罰の対象となるのです。

一方、(不注意で)不渡りの小切手を発行してしまった人が主張できる抗弁もあります。以下に、裁判所から認められた有用な抗弁をいくつか挙げます。

(a)支払先から不渡りに関する書面通知が発行人に届かなかった場合

(b)小切手による支払を停止すべき正当な理由が発行人にある(たとえば、購入した物品が納入されなかった)場合

(c)不渡りの通知を受領してから5銀行営業日以内に小切手に記載されている金額を発行人が全額支払った場合

以上のことから、もしフィリピンで小切手を発行される予定がある場合は、必ずその資金を確保しておくことをお勧め致します。そうしないと、小切手の全額を支払うだけではなく、重い罰金を支払うことになる上、更にはフィリピンの刑務所で過ごすことにもなりかねないのでご注意下さい。


*本記事は、フィリピン法務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。フィリピン法務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。