台湾の「行政訴訟法」の改正について

台湾の裁判所は、民事事件と刑事事件を審理する裁判所、及び行政事件を審理する行政裁判所に分かれている。日本の裁判所システムと異なるところは、独立した行政裁判所があることである。行政機関の行政処分を不服とする場合、行政機関への訴願を経て、行政裁判所に対し行政機関を相手として提訴することになる。

民事事件と刑事事件を審理する裁判所には3つの審級(地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所)があるが、行政裁判所には2つの審級(高等行政裁判所、最高行政裁判所)しかない。行政事件の救済手続については、一般的には、国民が行政機関の行政処分を不服とする場合、当該行政機関の直属の上級機関に対し不服申立てをする。直属の上級機関の裁決を不服とする場合、高等行政裁判所に提訴し、さらに、高等行政裁判所の判決を不服とする場合には、最高行政裁判所に上訴する。

現在、台湾全土には台北高等行政裁判所、台中高等行政裁判所、及び高雄高等行政裁判所の3つの高等行政裁判所しかない。即ち、高等行政裁判所は、大都市に集中している。当事者が高等行政裁判所に行政訴訟を提起する場合、当該当事者が地方に住んでいるときには、都市に赴かなければならない。そのため、第1審の審理を行う高等行政裁判所が3つしかないことは、当事者にとってかなり不便である。

上記の問題を解決するため、台湾の司法院は「行政訴訟法」の改正案を作成した。本来、地方裁判所は民事事件と刑事事件のみを審理するが、「行政訴訟法」の改正案によれば、民事事件と刑事事件を審理する地方裁判所に、行政廷を設置し、一定の行政事件については地方裁判所の行政廷が管轄することになる。台湾には、21の地方裁判所(台湾本島以外の澎湖地方裁判所、金門地方裁判所、連江地方裁判所を含む)があるため、改正案が施行されれば、国民は一定の行政事件について行政訴訟を提起する場合、自分の住まいにより近い地方裁判所で提起することが可能になる。

「行政訴訟法」の改正案によると、地方裁判所の行政廷が管轄する事件は、簡易訴訟事件(注1参照)である。なお、同案によれば、本来地方裁判所の刑事廷が管轄する交通裁決事件も、地方裁判所の行政廷が管轄することになる。簡易訴訟事件及び交通裁決事件に関する地方裁判所の行政廷の判決に対し、当事者は高等行政裁判所に上告することができるが、高等行政裁判所の判決が終局的なものとなるため、最高行政裁判所に上告することはできない。

台湾の司法院は、既に「行政訴訟法」の改正案を立法院の審議へ提出しており、立法院は近日中に改正案を審議する予定である。

(注1)訴訟の目的の価額が40万台湾ドル以下の事件、及び行政機関が行う勧告・警告・違反点数をつけること等の軽微な行政法規違反に関する事件を指す。


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【執筆担当弁護士】

弁護士 黒田健二 弁護士 尾上由紀 台湾弁護士 蘇逸修